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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(オ)375号 判決 1956年3月02日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人笠原房夫の上告理由第一点について。

原審の認定するところによれば、本件売渡処分は、買収の時期において本件土地の転借人として現実に耕作の業務を営んでいた訴外山近四郎が売渡手続の存在を知らなかつたため買受の申込をなさず、転貸人である上告人が耕作者として買受の申込をしたため上告人を売渡の相手方として行われたというのであり、しかも上告人は、その当時から売渡処分の取消があるまで本件土地を自ら耕作したことは一度もないというのであつて、本件売渡処分は、現実の耕作者である右山近を自作農化する結果とはならず、却つてその耕作権を一旦消滅させ(自作農創設特別措置法二二条)、同人に対しては地主的地位に当る上告人に単に土地の所有権を付与するに終つたことが明らかである。してみると、本件売渡処分は、現実に耕作の業務を営む小作農を自作農化することにより耕作者の地位の安定を図ろうとする自作農創設特別措置法の目的に全く反する違法の処分であることが顕著であるといわなければならない。他面、原審認定の事実によれば、本件売渡処分と取消処分との間に約三年の年月の経過があるとはいえ、その間、事実上法律上の状態にはほとんど変動はなく、右処分の取消により関係人の被る不利益が特に重大であると認めるべき格別の事情もうかがわれないところである。従つて、以上のような事情の下では、本件売渡処分を放置することによる公益上の不利益は、処分の取消により関係人に及ぼす不利益に比してはるかに重大であり、本件売渡処分を取り消すべき公益上の必要があるものと解するのが相当である。されば右取消処分は適法であり、これと同趣旨に出た原審の判断は正当である。

なお、論旨中には、訴外山近四郎は、その転借につき農地委員会の承認を得ていない旨云為する点もあるが、原審の認定する事情の下で、仮りに右承認がなかつたとしても、上告人を差しおいて同人を売渡の相手方として選定することは必ずしも不相当とはいい得ないから、被上告人が本件土地を改めて同人に売渡すべきことを売渡処分取消の理由としたとしても、このため右処分が違法となるものとは解されない。

以上の判断に反する論旨は、独自の見解を主張するものであるか、又は原審の事実認定を非難するものであつて、いずれも採用することができない。

同第二点について。

論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

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